第30話 双剣のダリア | |
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第31話 ファイヤーキャノン | |
第32話 変身解除 | |
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第31話「なんだてめぇら?」 零児達がダリアと戦闘を繰り広げている頃。 バゼル、ネル、シャロンの3人はアルテノスで暴れているもう1人の亜人、ラーグと対峙していた。 「貴様こそ何者だ……?」 ラーグの問いに問いで返すバゼル。 彼らの周囲には鉄の鎧に身を包んだはずの剣騎士《ソード・ナイト》達の死体が散乱していた。 いや、死体かどうかはわからない。鎧は表面が溶け出しており、死体の状況は見た限りではわからないからだ。ひょっとしたらまだ息がある可能性もある。しかし、それを確かめる術は無い。 考えられる死因は1つ。鎧の外側から炎であぶられた可能性だ。重い鎧を装着した騎士達は炎に抵抗することができなかったのだ。熱された鎧は地獄の釜と化し、剣騎士《ソード・ナイト》達の体を間接的にダメージを与えたのだ。 バゼルはラーグの口から炎と煙を呼吸の度に吐き出していることに気づいた。 「貴様……火山竜《ヴォルケイス・ドラゴン》の亜人だな……?」 「ああ、そうさ。てめぇも亜人なら、俺達の邪魔はしないでほしいな。俺達の目的はあくまで人間の抹殺。亜人はなるだけ殺したくはねぇ」 「残念ながら、俺は人間側の亜人でね。お前を見過ごすことはできん」 「だろうな。そうでなきゃ、人間を2人も引き連れているわけがねぇ……」 ラーグはバゼルの横に並び、己を睨みつけるネルとシャロンを見る。 「てめぇらも、俺を止めるために戦うのか? 人間のクセによ」 「そうじゃなきゃ、ここまで戦ってきた意味はないわ」 「……(コクン)」 ネルとシャロンの意思も変わらない。明らかに人間への敵対意識をあらわにし、事実人間を殺すことをなんとも思ってはいない亜人をほおっておくつもりなどない。 「まぁいい。どの道殺すことは決まってんだ。こいよ。焼き尽くしてやる!」 バゼルは明確な意思を持って、バゼル達に敵対の意を示した。 「2人とも、油断するなよ!」 『わかってる!』 「無駄だと思うがな……」 ラーグは空気を吸い込みつつ、跳躍した。そして、肺一杯に溜めた空気をバゼル達3人目掛けて放つ。 バゼル達は散開した。固まっていれば1度にやられてしまうと判断したからだ。 そして、その判断は正しかった。ラーグの口から放たれた火炎放射は一瞬で3人がいた地点を焼き尽くすのに十分すぎる威力を持っていた。3人はバゼルとネル、シャロンの二手に分かれる 「チッ……!」 舌打ちするラーグ。そして、シャロンの方に目を走らせた。 「……!!」 「まずはてめぇからだクソガキ!!」 再び肺に空気を溜め込み、シャロンに向かって炎を発射する。 「!」 シャロンは両手を前に突き出し、光の壁を出現させた。 「なに?」 それはラーグにとって予想外の防御方法だった。シャロンの作り出した光の壁は強固で、たやすく打ち破ることは出来ない。 ラーグがその状況に一瞬戸惑うその隙に、背後からネルが迫ってきていた。 無言のままネルは拳を振りかぶる。ラーグはその気配に気づき、即座に振り向いた。 ネルの拳がラーグに迫る。ラーグはその拳を自らの左手の平で受け止めた。しかし、拳の勢いを殺すことは出来ず、真横に殴り飛ばされる。 否、殴り飛ばされたのではない。ラーグはネルの拳をそのまま受け止めて、その拳を逆に掴んだのだ。そして、勢いに身を任せて飛ばされた。つまり、ここまでの動きはラーグにとって計算の内なのだ。 彼は吹っ飛ばされながらも耐性を整え、地面に着地する。そこに、バゼルが走り寄ってきた。 バゼルは着地直後のラーグの頭目掛けて、己の口を大きく開いた。頭から噛み殺すつもりなのだ。息を吸い込む暇すら与えずに。 「ざけんなぁ!」 が、ラーグは即座に右手を握り、バゼルのあごを殴り上げた。 「グッ……!」 殴られたあごと、口の中に衝撃が走る。口の中で歯と歯がぶつかり合う。 「燃え尽きろ!!」 直後、ラーグがバゼルの腹部目掛けて、火炎放射を放った。 「ヌゥオオオオオオオオ!!」 炎を直接体に受けて吹き飛ぶバゼル。彼は地面を転がり、自らの体毛に引火した炎を消す。 「グッ……っく……」 「バゼルさん!」 「大丈夫だ。まだ戦える!」 「さっさとくたばれ!!」 ラーグはさらに大きく息を吸い込む。そして、今バゼルを吹き飛ばしたものより、さらに高威力の火炎放射を放った。 「させない!」 ネルとバゼルの前にシャロンが立ちふさがる。そして、先ほどと同じように光の壁を作った。 火炎放射は、シャロンの光の壁に阻まれてダメージを与えるに至らない。 「ならコイツはどうかねぇ?」 ラーグは再び空気を吸い込んだ。その炎に備えるシャロン。しかし、次の瞬間に放たれたのは火炎放射ではなかった。 「消し飛べ!」 次の瞬間。巨大な爆発が発生し、シャロンの光の壁はあっさりと崩れ去った。 ラーグが放ったのは炎の大砲だった。3人の身を守っていた。光の壁はその衝撃に耐え切れずガラスのように砕け散り、3人を大きく吹き飛ばした。 爆煙が広がり、3人の姿が煙に紛れて見えなくなる。 凄まじい威力の炎の大砲。たとえ爆発を直接受けていなくとも、3人の体力を奪うには十分すぎるほどの一撃であったことは否めない。起き上がれるだけの体力が残っているとも思えない。 「ハハハハハハハハハ!! こんなものか?」 ラーグは笑った。人間の体が亜人と比べてヤワであることはこれまでの経験で知ってる。バゼルがどうなったかはわからないが、人間2人なら気絶したに違いない。 煙で視界が悪い。徐々に煙が晴れていくことで、吹き飛ばした3人の姿が見えてくる……はずだった。 「なに!?」 煙が晴れたにも関わらず、バゼル達3人の姿が見えない。 「ど、どういうことだ!?」 キョロキョロと辺りを見渡す。いくら炎の大砲を放ったとはいえ、人間の体が跡形も無く消し飛ぶほどの威力ではなかったはず。 その時だった。ラーグは自らの後頭部に強い衝撃を感じた。声すらあげることなく、大きく吹き飛ぶラーグ。 地面を転がり、体勢を立て直し立ち上がる。 「な、なんだ?」 ラーグは自分を殴り飛ばしたであろう人間を見た。そこにいたのはネルだった。いつのまにか彼女はラーグの背後に回っていたのだ。 「い、いつのまに……?」 冷静に状況を思考する間もなく。立ち上がった直後のラーグを襲うもう1つの拳があった。 白き巨大な拳。バゼルの拳が細身のラーグの体を大きく殴り飛ばした。 「うおおおお!!」 またしても大きく吹っ飛ばされるラーグ。後頭部と腹部に凄まじい痛みを感じる。 「てめぇら……!」 ラーグの放った大砲は、確かに3人にダメージを与えていた。少なくともラーグはそう思っていた。しかし、実際にはそうではなかった。彼らは発生した煙を目晦ましに利用し、ラーグの視界から消えたのだ。 ネルはバゼルの元へと走りよる。 「ウオオオオオオオオオオオオ!!」 殴られたことに怒りを感じたのか、ラーグは瞳孔を見開き、再び肺に空気を溜め込む。 「またか!?」 「シャロンちゃん!」 ラーグの炎の大砲が放たれる。同時にシャロンが民家の影から姿を現し、またも光の壁を出現させる。 光の壁は今度は1枚ではなかった。何枚もの光の壁が何重にも重なり、防御の壁を厚くする。 1枚目の光の壁が貫かれる。が、1枚目のみならず、何枚かの光の壁が破壊されたところで、再び大爆発を起こした。 ――殺ったか? 今度こそ殺したと思った。しかし―― 煙を突っ切って、ネルとバゼルが同時にラーグの前に姿を現した。シャロンの光の壁が大砲の威力をかき消したのだ。 「なんでだ……!?」 ラーグが放った炎の大砲に怯むことなく、2人はラーグに立ち向かっていく。 こんなことは今まで無かった。あの大砲を放てば大抵の人間は死に至る。そもそも防ぐことなど不可能なのだ。防ぐことが無理なら回避すればいいだけの話だが、そんなことができるほど、ラーグの炎は遅くない。 ネルは、ラーグの思考と関係なく接近する。そして、思いっきりその頬を殴り飛ばした。 「うううう……」 幾度と無く腹や頭を殴られ、意識がクラクラしてくる。 「ち、畜生……」 「動くな」 バゼルがラーグの喉元に自らの爪を突きつける。それは動けば即座に命を奪うという意思表示だ。 「お前の負けだ……。大人しく縛につけ。大人しく従うなら、命は奪わん」 「……」 「ハァ……ハァ……」 ネルは肩で息をしている。大して大きく動いたわけでもないのにここまで息が乱れているのは、一重にラーグの炎を恐れて心が常にゆり動いていたからだ。 が、ラーグの動きが止まったことで、緊張がほぐれてくる。 「フッフッフッフ……」 ラーグは口元を歪めて笑う。 「勝ったつもりか?」 「なに?」 ラーグは2人の背後から歩み寄ってくるシャロンを睨みつける。 ――あのガキさえいなければ……! 「トランス・オフ」 ラーグは変身魔術解除のキーワードを唱えた。 |
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